月夜見

     木枯らしぴゅうぴゅう 〜大川の向こう

     *やたら幅の広い川の中洲の小さな里に暮らす、
      ちびルフィとちょっとお兄ちゃんなゾロのお話です。
      実の兄弟ではありませんが、実の兄より懐いている坊やと、
      それが満更でない、ちょっと口下手な剣道小僧という二人です。

 
例年の今頃は確かに寒くなろう頃合いだが、
それにしたって今年のこの冷えようは極端が過ぎる。
木枯らしが吹いたからと大急ぎでコートを出しても、
いつの間にか…陽射しはぬくいのでと
ストール以外はお荷物にしてしまう日が戻って来て。
クリスマス前後にやっとのこと、
手套や耳当ても欲しいかなと思うよな、
本格的な寒さがやって来るという順番なものが。

「寒くて暑いぞ、このヤロ―っ#」

ややこしいゴネ方をし、
ただただ怒っているのかと思いきや
えっへんと胸から腹から突き出して威張っているのは、
中洲の里の王子様こと、年少さんたちのリーダー格、
腕白ガキ大将のルフィさんで。
寒いというのは朝からこの里を包み込んでいる、
この冬一番の寒波を差してのことだろう。
もう昼過ぎだというに、ようよう冴えた青空にはお日様も出ているというに、
時折吹き付ける風が強いため、凍るような風が頬におでこに殺到して痛いほど。
なのに暑いというのは、
ジャンパーとセーターとオーバーオールの上へ
家人らからもっと着ろ着ろと重ねられたらしい
ニット帽や襟巻やら手套やらといった様々な防寒具に埋もれていて、
可愛いお顔が真っ赤になるほど蒸しているからで。
さすがにこれはやりすぎで、
汗かいてそれが冷えたら却って風邪を引きかねぬと、
こちらもいがぐり頭にニット帽のお兄ちゃんが
帽子と襟巻は取ってやれば、ぽあぽあと湯気が上がったから物凄い。

「ふう、助かった♪」

にゃは〜と笑ってから、だがだがまだご機嫌は収まらぬのか、
寒くて他には誰も出ていていない、児童公園のベンチに腰かけたまま、
小さな王子はすぐさま口許を尖らせると、

「こんな寒いなら雪降ればいいのにさ。」

一番のご不満を口にする。
そう、こちらの腕白さんは寒いのは結構我慢できるらしく、
暑い時の萎びように比べれば、お外に出てくるくらいで元気元気なまんま。
ただ、そのお元気は、寒い時に付きものな雪を待っているからでもあって、
ちょっとでも寒くて窓が結露に白く曇ってる朝など、
寝坊すけで毎朝マキノさんの手を煩わせるはずが
がばっと起き出しては縁側までドタドタ駆けてゆく現金さ。
とはいえ、

「ここらで雪が降んのは2月になってからだぞ。」

関東のどっちかといや南寄り。
春が早めにやって来るよな地域だってのに、
12月の半ばで雪よ降れと言われても無理だぞと言いつつ、
それでも坊やともども空を仰いでやる付き合いの良さであり。
緑のニット帽にくるまれた、
兄貴分の真ん丸頭をむうと膨れて見やった坊やへ、

「大体な、ほとんどの人は雪って迷惑だって思ってる。」

小さなお兄ちゃんがそうと告げれば、え?と幼い顔が強張って。
お日様みたいだった表情がするすると曇りつつ、
何でだ何でと問いたげになったところへ、

「道路がすべりやすくなるし、艀だって止まる。
 大町の方でだって、電車が止まったりするから会社や学校に行けなくなる。
 お店へ荷物を運ぶトラックも立ち往生するから、
 買い物にって店へ行っても商品が並んでなかったりする。」

もっとすごい雪降るところなんて、
放っておいたら家が潰れるから
屋根の上へ毎日登って重たい雪を降ろさにゃならないそうだぞと。
さすがは6年生で、そういった世情をかみ砕いて説明してやり、

「雪降ったら学校が休みだとか雪で遊べると思うのは、子供だけだそうだぞ?」
「うう。」

ちょっと言い過ぎたかなと思わないではなかったけれど、
寒い中毎日わぁいと飛び出しちゃあ、
雪よ降れといつまでもお外に居続ける坊やなの、
実のところはゾロもまた、困ったもんだと思ってた。
元気ではあるが風邪もひくのだ、この子はいつも。
今日のいでたちのよに、大人たちから過剰に甘やかされているからかも知れないが
それはそれで、さほど問題はない。
自分みたいな気がついた者が調節してやればいい。
ただ、雪が降らないかなと頑固さを発揮してなかなか暖まりに帰らないのが問題で。
汗をかいたままで戸外に居れば、
それを冷やして風邪を引きかねない。
そこまでの“理屈”を告げるのは、だが、
順を追って並べるうちにルフィの“面倒くさいからもういい”が発動し、
最後まで聞きゃあしないだろというのが判っているため、
それでなくとも口が回らぬ自分では力不足に違いないと、
困ったように口許をぎゅむと結んでおれば、

 「…なあ、ゾロは子供って嫌いか?」

所詮は子供だ、お互いに口が回らぬ、言葉が足りぬ。
子供っぽいのと 所詮は子供だしというのとでは微妙に意味合いが違うということとか、
そんな微妙なところがお互いによく判ってなかったし、
嫌いかと問われれば、好きか嫌いか、二択しかないと思うもの。

  だってまだ子供だし。

不意な問いかけへ、う〜ん?と微妙なお顔をした
こちらもどっちかといや利かん気そうな面構えの小さなお兄ちゃん、

「苦手だ。」

ぶっきらぼうな彼にしては言葉を選んだほうか、
そんな言いようをした小さなお兄ちゃんは、
それでもルフィがしょぼんと項垂れるのとほぼ同時に、

 「でもな、それがルフィなら別だ。」
 「あ…。」

口許を真横に引いてにっかと笑うのが、何とも不敵でかっこよい。
わあ、何だよもう、ゾロのくせにカッコいいじゃんかと、
腹の底やら胸の奥からじたじたしたくなる衝動が沸き上がって来て、
小さなルフィがキャッキャとはしゃぎ。

 「ほら、汗いっぱいかいてるから、家へ帰ろう。」
 「そだな♪」

このままじゃあ風邪ひくもんなと、
耳にタコが出来そうなほど言われていたそれ、
恐らくは初めて自分から口にした坊ちゃんの小さな手が伸ばされるのを、
衒いなく捕まえて手をつなぎ。
今日は濃い色の川の表を見下ろす坂の上の公園から、
仲良しの二人、白い息を吐きながら、とてとてと家路についたのでありました。





  〜Fine〜  17.12.15.


 *お寒うございますね。
  結構暖かいお日和が続いてたところの急転直下で、
  またしても着るものが判らなくて右往左往してます。
  夕方に帰宅するお人は朝の寒さ対応の重装備でいいでしょうが、
  ちょっとお買い物に出かけるだけとか
  通院するだけなると荷物になるのは適わんのですよ。(我儘)

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